「福岡市が地方最強の都市になった理由」(2018年3月発行、著者:木下斉)の読書メモです。
一度でも訪れたことがある方や住んでいたことがある方なら共感してもらえると思うんですが、福岡市ってほかの大都市にはない、独特の居心地の良さがありませんか?
個人的には、料理がおいしいことや、あまりごみごみしていないところも特に気に入ってるポイントです。
機会があればまた行きたいまちの1つとして、私自身の心に福岡市は残っていました。
そんな福岡市について書かれているということで、この本を手に取ってみました。
読む前は、いわゆる福岡礼賛本かなと思って、正直あまり期待していなかったのですが、全然違いました。
行政、民間に関わらず、まちづくりに関わっている方は、ぜひ一度読んでみてもらいたいです!
「まちづくりの本質は何か?」ということを考えさせられる一冊です。
今後のまちづくりを考える上で、参考にしたい点をピックアップします。
福岡市の何が最強なのか
まず、基本的なこととして、福岡市はどんなところが最強なんでしょうか。
この本では、様々な角度から、福岡市を最強とする理由を紹介しています。
例を挙げると、このような指標です。
- 人口増加率、日本一
- 大学及び短期大学数、政令指定都市中5位
- 開業率、政令指定都市中1位
- 空港アクセス、アジア1位
- 屋台数日本一(福岡らしさ)
- 建設投資伸び率、日本一
人口減少と首都圏への人口集中が進む今の日本において、「人口増加率、日本一」って、全ての都市が一番ほしい称号ではないでしょうか。
人は様々な要因から都市の魅力を評価し、その結果が人口として表れます。
そのため、「人口は都市の成績表」であると著者は書いています。
本著によると、人が住む町を選択する際のポイントとして、3つの観点があるそうです。
産業・雇用
そこに報酬や環境や社会的ステータスを含めた、魅力的な仕事があるか。また、多様な雇用選択が可能かという点です。
インフラ
生活するために必要な社会資本や公共サービスが揃っているか。子育て期であれば教育機関、高齢者であれば医療機関などの充実具合が大きな判断材料になります。また、飲食店や小売店も生活に必要なインフラとして認識されています。
ライフスタイル
自分がどのように生きていきたいか、という視点です。近年では、「職住近接が良い」と考える若者世代が多くなり、職場と住宅が近距離にあるのを好む傾向にあります。また、自然を感じられる場所へ移住するために、仕事さえ変えてしまう人もいます。人々の生活ニーズが多様になるほど、都市にも「多様性」が求められ、特に近年はそれが都市選択の重要な要素になっています。
これら3つの要素の優先順位は、人それぞれですし、バランスも重要になります。
福岡市は、この3つの要素において、多くの人から高い評価を受けているからこそ、日本一の人口増加率になっているのでしょう。
では、何が高い評価につながっているんでしょうか。
様々な要因が考えられますが、教育機関が多くある教育都市であること、若者が挑戦しやすい環境があること、交通のアクセスが良いこと、他では味わえない福岡独自の文化があることなどは、人を惹き付ける重要な要素になっていると思います。
最強の福岡市はどうやって生まれた?
では、今の最強の福岡市はどうやって生まれたんでしょうか。
ネタバレになるため詳細は書きませんが、本著では鍵となる、5つの常識破りな戦略と立役者として5人を紹介し、それらから導き出される、経営視点で考える福岡独自のまちづくりメソッドを3つ紹介しています。
福岡メソッド
- 制約から戦略を考える
- 新技術を味方につける
- 民間資金の力で尖りを生む
この中でも私が特に重要だと感じたのが、①の「制約から戦略を考える」です。
今の福岡市を見ると考えづらいですが、実は福岡市って、少し前まではここまで注目される存在ではありませんでした。
明治維新の直前には、役人の不正問題で藩主を交代させられる大混乱になり、そのまま維新に突入しました。
また、昭和の工業化の時代にも地理的な制約があって、お隣の北九州市などのように、工業都市として発展することができませんでした。
しかし、制約を理由にして諦めたり、単に他の都市の模倣をしたりせずに、制約があるからこそ知恵を働かせ、独自の魅力を積み上げてきたことで、今の福岡市があるわけです。
人間はできない理由を探すのは大得意です。
特に行政マンは、できない理由探しのプロといっても言い過ぎではありません(笑)
でも、制約があるということは、やれないことがはっきりしているため、裏を返せばやれること・やるべきことも明確にしやすいということでもあります。
そこから戦略を導き出し、他の都市にない魅力を作り出すというメソッドは、とても合理的ですし、他の地方都市も積極的に取り入れるべきものだと思います。
福岡市から学ぶまちづくりの本質!
福岡市から学ぶべきものの本質は、繰り返しになりますが、「制約から戦略を考える」これに尽きるのかなと思います。
そもそも、まちづくりが目指すべきものってなんなんでしょうか。
私自身の答えは、「他の土地では得られない魅力的な何かを生み出し続けること」です。
人を土地に惹きつける要素には色々なものがあると思います。
それは、人によって違うし、時代によっても変わるでしょう。
でも、時代などの変化にうまく適応しながら、魅力的な何かを生み出し続ける都市には、自然と人が集まってくるでしょうし、それによってさらなる何かが生み出される正のスパイラルも生まれてくると思います。
もちろんその前提として、総合的な生活のしやすさなどの環境要因が一定以上の基準で満たされていることが条件になります。
ただ、そういった前提条件を満たすためには、当然財源が必要ですし、その財源を確保するには、やはり都市の規模に応じた人口や企業の数などが必要不可欠です。
そして、人や企業を集めるためには、魅力的な何かが必要です。
にわとりが先か卵が先かといった話のようですが、これはどちらかを先にという話ではなく、どちらもやらなければ、地方都市は生き残れないという話だと思います。
正直に言って、行政は都市独自の魅力的な何かを生み出すことは、得意ではありません。
そこは、福岡市のように思い切って民間に任すということも、今後の行政の姿勢として大切なことだと思います。
官民が連携して、自分たちの都市の強みや弱みはなんなのか、それをどう役割分担しながら尖らせていけば、他の都市にはない魅力を生み出せるのか、そういったことを本気で考え実践し続けることからしか、都市の持続可能性は手に入れられないのだと思います。
そして、それができている都市はまだ多くないからこそ、どの地方都市にもチャンスはあると思います。
官民どちらにも、様々な摩擦や葛藤を生むことが必至のプロセスですが、実践できれば他の都市にはない魅力は必ず生み出せる!
そんな強いメッセージを本著からは受け取りました。